6、船の上での大騒動(前編)





「…あの、どうしてこうなってるんでしょう…?」
「いやー…オレに聞かれてもなー…」
船の旅は快適に…なるはずだったのだが。2つずつ、合わせて4つの瞳に睨みつけられ、トパーズとゴールドは顔を見合わせる。
「がんばれ2人とも!」
「負けんなよーっ!」
横で声援を送るのはクリスとニクス。ちなみに他3人は船の見学中である。
「やいてめーら!早くポケモン出しやがれ!」
「そーだそーだ!2対2でやろうっつったのはそっちだろうが!」
名すらないそこらへんの2人の言葉に、やれやれと2人ともモンスターボールに手をかける。
 2対2とは、最近普及し始めた新しいバトルの形で、その名の通り2人のトレーナーが1対ずつポケモンを出して戦うルールで、ポケモンとトレーナーの実力、そしてトレーナー2人のコンビネーションが重要である。
 なぜこんなことになったのかというと、別に振り返ることもない。ただ単にニクスが、売られた喧嘩をトパーズとゴールドにまわしてきただけなのだが。
「ま、やる限りは手加減しねーぜ!行くぜバクたろう!」
「おいで、りゅうこ!」
ぽんぽんっ、と、2人のポケモンが姿を現す。バクフーンとハクリュー、そしてそれに対するスリーパーとヤドラン。
「バトル…開始っ!」
ニクスの声と同時に、2組の試合は始まった。

 船をぶらぶらと探索していたオニキスは、廊下でばったりとジストに出会った。
「…マリンは?」
「開口一声目がそれか?…あいつなら船室にいると思うが」
オニキスの言葉に、なんだかんだ言いつつもジストは普通に答える。
「ほっといていいのか?」
「ああ、親父さんの血が騒ぐから、資料をまとめてくとよ」
「…なんつーあいつらしい行動だよ…」
その姿が簡単に予想できて、思わずオニキスは頭を抱える。その姿にフッと笑って、ジストは再び口を開く。
「仕方ないさ。20年前の世界だぜ?研究者の卵としては全てが宝の山だろうからな」
「まーな…。お前は、研究者の道へは行かないのか?」
「さぁな、気が向いたら行くかもな。…とりあえずは親父の後継ぎだけど、な」
「後継ぎって…親父さんまだ現役だろ?」
意外な一言にオニキスが聞き返すと、ジストはため息をつきながら肩をすくめた。
「とりあえずは代理からだ。…お袋が相変わらず飛び回ってるからな、心配だからついていきたいんだと」
「はは…大変だな、グリーンさんも」
「結婚した時に覚悟はしただろうさ。…どちらかといえば、お袋に振り回されてるのはシルバーさんだろ」
言われてオニキスは思い出す。犬も食わない夫婦喧嘩の間に入っていかねばならない兄の姿を。
「…言うなよ…そーいやシル兄、この時代なら俺たちと同じぐらいの年か…」
「この船はアサギにむかってる。会えたりしてな」
「まさか」
ジストの言葉をははっ、と笑い。オニキスはその場を後にしようとして―――。
 ぐらっ。
「うわっ!」
「何だ!?」
大きな揺れ。…船が、揺れた。

「スリーパー、さいみんじゅつだ!」
「りゅうこ、しんぴのまもり!」
バクフーンに放たれたスリーパーの技を、ハクリューが防ぐ。
「サンキュ、トパーズ!…そのまま行け!かえんほうしゃだっ!」
「ヤドラン、みずでっぽうで炎を消せ!」
相手トレーナーの相方も必死でポケモンに指令を飛ばす。完全には消しきれないものの、そのおかげでバクフーンの炎の威力はかなり削がれていた。
「ちっ!にゃろう、結構やりやがるっ」
「それなら先に倒しちゃいましょう!りゅうこ、げきりんっ!」
トパーズの声に、ハクリューが答えるように吼える。そのまますごい勢いでヤドランに襲い掛かる。本来なら技の後混乱するこの技も、先ほどのしんぴのまもりのおかげでその効果は発揮されない。それも計算に入れて、トパーズは最初にあの技を指示していた。
 なんとか耐えたヤドランだが、ふらふらしているところを見ると相当のダメージのようだ。
「おっし、終わりだ!いっけぇ、バクたろうっ!」
ゴールドの声に突撃するバクフーン。かわせるはずもなく、ヤドランは戦闘不能になった。
「あああっ、ヤドランーっ!」
「くっそ、スリーパー、サイコキネシスだ!」
もう1人のトレーナーのスリーパーの技がハクリューを襲う。戦闘不能にはいたらないが、そこそこのダメージに一瞬その体がぐらりと揺れる。
「りゅうこ!大丈夫?」
トパーズの声にこくりとうなずくと、ハクリューはじっと己の主を見る。わかってるよ、とトパーズもうなずき返した。
「いくよっ!はかいこうせん!」
ハクリューから放たれた光線は―――その一撃で、スリーパーを戦闘不能に陥らせた。
「そこまでっ!勝者ゴールド・トパーズ組!」
ニクスの声が響き渡り。…その瞬間、わぁっと辺りから歓声があがった。
『えぇ!?』
今まで勝負に必死で2人は気付いていなかったが、いつのまにか周りには勝負に見入っていた暇な乗船客がわらわらと集まっていた。中には「次勝負してくれ〜っ!」と騒いでいるのもいる。
「ど、どうしますか…?」
「なーに、心配すんな。誰がきても負けやしねぇって」
そういう意味じゃないんですが、と内心トパーズはつぶやいた。
「にしても強いな、お前のハクリュー。感心したぜ」
「え?…あ、ありがとうございます。…ありがとねりゅうこ、戻っていいよ」
すっとボールを取り出して、ハクリューを戻す。その表情には、自然と笑みが浮かんでいた。
「さーて、次はどいつだ!?」
「ゴールドさん、そんな挑発しないでくださいっ!」
ああもうこの人は…とか思って、ニクスと交代しようかとか頭の中で考えたのだが、それを伝えることはなかった。

  ぐらり。―――船が、揺れたのだ。

「―――――っ!?」
「な、なんだぁ!?」
ニクスの声に答えるものはいない。乗客達も混乱し、我先にと部屋に駆け込んでいく。
「きゃあ!」
「クリスっ!」
その人々の流れに飲み込まれそうになったクリスを、ゴールドがその腕をつかみ引き寄せた。
「大丈夫か!?」
「うん…。でも、この揺れはいったい…」
少々顔を赤くしながら疑問を口にするクリス。その時、トパーズのポケギアが鳴った。
「…マリン!?」
『トパーズ!よかった、通じた!』
「どうしたの?もしかして、この揺れの原因わかったの!?」
『うん。今ジストと合流して、下まで来てるの。―――エンジントラブルがそもそもの原因よ。でもぱっと見た感じ、少し時間がかかりそうなの。今どこにいる?』
マリンもジストもかなり機械系には強いが、その2人がそろっていて時間がかかるなんてよほどのことなんだろうと思いながら、その質問に答える。
「甲板だよ。ニクスと、ゴールドさんとクリスさんもいる」
『おばさまがいるなら丁度いいわ。…ここら辺ね、水ポケモンがいっぱいすんでるみたいなの。しばらく船は動かせないから、襲い掛かってくるのもいると思うのよ。そういうのを撃退、もしくは捕獲してほしいの』
「うん、わかった!」
ぴ、っとポケギアを切り、トパーズは周りを見る。乗客たちはほぼ全員船内に避難したらしく、甲板に残っているのは4人だけだった。
「マリンから伝言です。―――おそらく襲い掛かってくるであろうポケモンたちを、撃退もしくは捕獲してくれと」
「ま、やるっきゃねぇよな」
「捕獲はまかせて!」
「なんとかなるさっ!」
それぞれうなずいて、すっと4つのボールが構えられる。ぽんぽん、っと、出て来たのは、それぞれピチュー、エイパム、エビワラー、二ドリーノ。
 4人のトレーナーが四方に向かって地をけり…同時に、水上にたくさんのポケモンたちが姿を現した。



 


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