4、お父さんとお母さんに会いたい





 とりあえずニクスと合流したいんですけど、とゴールドとクリスに言ったところ、軽くOKの返事が返ってきて。ただ今カントーに向かうリニアの中、というのがトパーズの状況だった。
「んで、どーやってトキワまで行く?」
リニアの中、そう切り出したのはゴールドだ。することがなくて暇だったというのも多少あるだろう。
「トパーズは「そらをとぶ」が使えるポケモン、持ってる?」
「いえ…」
トパーズが首を振ると、そっか、とクリスはため息をついた。
「私のネイぴょんもゴールドのマンたろうも、長距離は無理だし…」
「迎えに来てもらっちまえば?」
「レッドさん達も、そう大きなポケモンは持ってないはずよ。…ヤマブキに着いたら南に下って、クチバからディグダの穴を通るしかないでしょうね」
ポケギアで地図を開きながら言うクリスの言葉に、めんどくせぇなぁとゴールドがぼやく。
 初めて見る、けれどあまりにも見慣れた光景に、トパーズは思わず吹き出した。
「…なーに笑ってんだよ、お前」
「だ、だって…2人とも、全然変わってなくて…」
くすくすと笑いながらゴールドに答えるトパーズの様子に、2人は顔を見合わせる。
「…俺たち、未来でもこうなんだとよ」
「成長、してないのね…」
そろってため息をついてしまう2人の横で、まだ笑い続けるトパーズ。そうこうしているうちに、リニアはヤマブキへ到着した。

 港町でもあるクチバは、どこからともなく潮の香りが漂ってくる。町を歩く3人、特にトパーズは、物珍しそうに辺りの店を見回していた。
「うわぁー、お店がいっぱい出てますね…」
「なんだよ、お前田舎育ちか?」
「えっと、コガネの南に住んでるんですけど。…だから、買い物とかは全部あの大きいデパートで済んじゃうもんで、こういう小さい店がたくさん、っていうのは見慣れてなくて」
ゴールドに答えながらも、目では様々な店を追っているトパーズを、クリスは不思議な気持ちで見ていた。
「私も、初めてこの町に来た時、トパーズと同じような反応したわ」
「そう…なんですか?」
「うん。懐かしいな…といっても、そんなに昔のことじゃないんだけどね。そうだ、トキワに行く前に、少しお店見てこっか」
「はい!」
明るく返事をしてから、―――少しだけ、うつむいてその場に立ち止まる。ゴールドとクリスはそれに気付かず、ゆっくりと大通りを歩き始めた。
 顔を上げると、並んで歩く2人が見える。やはりこういうことは女の子の方が好きなのか、クリスの方が楽しそうだが、ゴールドも嫌そうではなく。―――見慣れていたはずの光景。いつもなら慌てて追いかけて、その間へ入っていっていた。けれど、ここは自分が知っている世界ではなく。2人も、自分が知っている2人ではなく。
「…ふぇ…っ」
だめだ、と思ってももう遅かった。…そんなトパーズの様子に、先に気付いたのはゴールドの方だった。
「お、おい、トパーズ!?何泣いてるんだよ!」
「え!?トパーズ、ど、どうしたの!?」
慌てて駆け寄る2人だが、それで泣き止めるはずもなく。ぼろぼろと、止まらなくなった涙をトパーズは流していた。
「…ぇ…っく、…ごめ、なさい…なんでも、ないんです…」
「なんでもないわけないじゃない!…大丈夫?どこか痛いの?」
クリスの声に、心配してくれているんだと思うと、余計に涙が止まらなくて。トパーズが涙をなんとか止めようと必死になっていると、ゴールドが頭をぽんぽんと叩いた。
「あー、無理しなくていーから。とりあえず、理由言ってみろよ」
背だって低い。声も違う。けれど、その言葉は父そのものだと、トパーズは思う。
自分はこの人の娘なのだと、ふと思った。
「…会いたい、です…」
「え?」
「…父さんと、母さんに、会いたいです…」
 ちょっとした喧嘩をしてしまった。原因は自分で、でも素直になれなくて。そのまま、家出してきてしまった。―――それなのに、離れていると寂しくて。結局自分はまだまだ子供なのだと思う。
「親父さんとお袋さん、か。…送ってこうにも、未来なんだよな?」
ゴールドの言葉に、トパーズはこくりとうなずく。
「でも、お友達が迎えに来てくれるんでしょう?」
クリスの言葉にも、こくりとうなずく。
「大丈夫、帰れるから。もうすぐ、ちゃんと帰れるからね。だから、安心して」
「…はい…っ」
ゆっくりと優しく頭を撫でてくれるクリスが、遠い未来の母の姿と重なって見えて。寂しさとは違う何かで、心が満たされるような気がした。
 どれくらい時間が過ぎただろうか。もちろん、そんなに長い時間でもなかっただろうが、3人にはとても長い時間のように思えていた。
「…落ち着いた?」
「はい。迷惑かけちゃって…すいません」
「いいのよ、気にしないで。さ、気を取り直して、改めてお店見てまわろっか!」
「…はい!」
うなずくトパーズの顔には、自然と笑顔になっていて。つられて、ゴールドとクリスも笑った。
 その時。
「トパーズ!?」
「…え?」
誰かに名前を呼ばれた気がして彼女は振り返るものの、道を行く人々の中に知っている顔はいない。
「どした?」
「いえ…なんか呼ばれた気がしたんですけど…」
気のせいみたいです、と言ってから、改めて歩き出そうとしたのだが。
「…なぁ、トパーズ。お前、あいつに見覚えあるか?」
「えぇ?」
ゴールドに言われ、彼の指差した方向に目をやると、それは先ほどの声が聞こえた気がした方向で。そちらから、走ってくる人影が1つ。
 短めの黒い髪を振り乱すその少年は、黒を基調とした服に身を包み真っすぐこちらへ向かってきている。―――もちろん、トパーズは彼を知っていた。
「…オ、オニキス…!?」
 本当は、2、3日は覚悟していたのだが。あまりにも早い未来からのお迎えに、トパーズはちょっと驚くのだった。



 


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