3、そのころ彼らは





「…ジストー、いるー?」
「マリン?どうしたんだ?」
トキワシティで暮らす少年アメジスト。通称ジストは、母に連れられ世界を旅して回っている。久しぶりに故郷(といっても両親ともにこの町の出身ではないが)に帰ってきた彼は、父が住んでいる家で本を読みふけっていた。
 …といっても、父と母は別々に暮らしているからといって仲が悪いわけではない。むしろ仲が良すぎて息子としては少々恥ずかしい。ただ、父にはこの街にいなければならない理由があり、母はじっとしていられないたちで、離れていても愛が消えるわけではないと2人ともわかっている。それだけらしい。
 そんな彼の元へ遊びにきたのは、マサラタウンに住む従姉の少女アクアマリン、通称マリン。
「うん、ちょっと聞きたいことがあって。…ポケギアが通じないって、どういう時があると思う?」
「…誰か、通じなかったのか?」
「トパーズ。この前点検したばっかだから、故障はないと思う」
この2人は親(ジストは母、マリンは父)の影響で機械に関する知識と技術はそこらへんの大人よりよっぽど高く、彼女の言うとおりなら故障の可能性は確かに低い。
「じゃあ、電波が届かないところにでもいるんじゃないか?」
「でも、しばらく外出の予定は無いって一昨日は言ってたわ。それにでかけてもあの子のポケモンで空を飛べるのはりゅうこだけだし、そんなに長い距離も時間も飛ぶのは無理。あの子の家の近くに電波の届かないところはないわ」
「…お手上げだな。ニクスかオニキスにでも聞いてみたらどうだ?案外、一緒にいたりするかもしれない」
「それもそうね…」
思い立ったらすぐ実行。というタイプでもないマリンだが、とりあえずポケギアをだしまずはニクスへとかける。
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。――――――ツー、ツー、ツー。
「ジスト。ニクスも通じない」
「じゃあオニキス」
 ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ、ぴ。――――――ガチャ。
『もしもし、オニキスだ。誰だ?』
「あ、ジスト、オニキスは出たわよ」
『…その声はマリンか?どうしたんだよいったい、突然電話してくるなんて』
「あのね、トパーズとニクス知らない?」
マリンの言葉にオニキスはすぐには答えない。彼女達から姿は見えるはずもないが、考えているのだろうということぐらいは予想できた。
『…今日レッドさんとイエローさんは、ニクス連れてゴールドさんの家に行ってるはずだ』
「ってことは、もしかしてあの2人いっしょにいる?」
『可能性はあるな』
「…冷静だね、オニキス」
『いや全然。そういうわけで俺は行く。じゃあな』
 ぷちっ。ツー、ツー、ツー。
「ジストー、オニキスに切られたわ」
「まあ、あいつとしては2人っきりってのが気に入らないんだろ。まったく、そんなこと気にしてるぐらいだったらとっとと言っちまえばいいのに」
「男の子としては、それは難しいんじゃない?…女の子だって難しいけど。それより、早く追いつかないと置いてきぼりくらいそうじゃない?」
マリンに言われるまでもなくそのくらいはジストだってわかっている。彼は腰から1つ、モンスターボールを抜きとった。
 ボンッ。音とともに現れたのは、鋼の翼を持つ鳥ポケモン。
「頼むぜ、エアームド。目指すはジョウトのウバメの森だ」
ジストの言葉にうなずくと、エアームドはばさっとその翼を広げた。ジストとマリンはその背に飛び乗る。
 2人が乗ったのを確認すると、翼を大きく羽ばたかせ、空へ浮いた。
「ねぇジスト、どうしてウバメの森なの?」
「オニキスはバカじゃないからな、ちょっとでも可能性があるところへ行く。ポケギアが通じないのには気付くだろうからな、故障じゃないとすればどこにいるのか?―――トパーズの家からどこかへ行くとしたらコガネかウバメの森を通る。森は電波を防いじまう可能性が低いが無いこともない。とくにあそこはセレビィの森だ。もし何もなくても、セレビィが最大限力を引き出せるところだから、それで何かつかめるかもしれないしな」
「なるほど…」
さすが、頭がよくまわるわといつものことながらマリンは感心した。

 ジストの予想通り、オニキスはウバメの森に来ていた。ピジョンをボールに戻すと、別のボールを取り出した。
 黒い髪が、風に揺れる。緑の光が、彼の目の前に出現した。
「セレビィ。何か、わかるか?」
オニキスの言葉にセレビィはこくりとうなずくと、その意志を彼に伝える。言葉は話せないが、テレパシーのようなものができるのはセレビィの力なのだろう。―――そんなことをぼーっと考えていたのだが、セレビィの伝えた事実は、彼の思考が一時停止するほどのものだった。
「…な、な、…何ぃぃっ!?
主の叫びに、驚いて思わずびくっと体を硬直させるセレビィに、オニキスははっと気付き我にかえった。
「すまん、驚かせたな。…そうか、わかった。セレビィ、力を貸してくれるか?」
主の言葉に、まかせてよ!と言っているような感じでうなずくセレビィ。彼もうなずき返し、―――直後、背後の気配に気付いた。
「誰だ!?」
「俺だ。そんなに怖い顔するなよ、オニキス」
「ジスト…それにマリン!?どうしてここに…」
振り返ったその視線の先にいたのは、幼馴染の2人。驚くオニキスを見て、ジストはふっと笑った。
「ここにくるだろうって予想はできたからな。俺たちを置いていく気だっただろう?」
「……」
「あ、反論しないってことは図星ね?酷いわよオニキスったら!」
「あのなぁ…別に何があるわけじゃないんだぞ?」
なんだってこいつらはという表情を隠しもせずため息をつくオニキスに、ジストとマリンは顔を見合わせて、笑う。
「なんてったって俺たちは幼馴染5人衆だからな」
「置いてきぼりはないと思うわ」
オニキスははっきり言って、トパーズとニクスよりはこの2人が苦手だった。…もっとも、比べるのも悪いとは思うが。
「…わかったよ、勝手にしろっ!」
「そうさせてもらう」
ジストはからかうような口調で言って、オニキスが反論する前にもう一度口を開いた。
「それで、2人の行方はわかったのか?」
「ああ。時空の歪みに巻き込まれたらしくてな、今は22年前にいる」
『…に、22年前!?』
「変なとこで気が合うよな、お前ら」
まったく同じタイミングとセリフで驚く2人を見て呆れたのかため息をつき、気を取り直してセレビィへと向き直った。
「目的地は、トパーズとニクスがいる場所。…セレビィ、頼む!」
オニキスの声と同時に辺りは光に包み込まれ―――彼らはその姿を消した。



 


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