今日はいつも帰っていた友達が体調を崩して早退したので、帰り道は一人だった。ゴールドといっしょに帰っていたジョウト小のころが懐かしいなと、考えてしまうのは何故だろう。多分、最近彼が冷たいような気がするからだ。
あまり話をしていないし、昔より態度が冷たい、気がする。何か悪いことをしただろうか。でも別に昔から口うるさくはしていたような気がするし。しかし事実最近は目が会うと慌てて避けられるようなこともあったりで。
「…ああもう、考えても仕方ないわ!明日、イエロー先輩に相談でもしてみよう!」
24HRのイエローは昼休みは大抵生徒会室か図書室にいる。昔ちょっとした縁でお世話になってからいろいろと相談にのってもらうことも多かった。
「でもイエロー先輩、レッド先輩のことで悩んだこととかあるのかしら…うーん…」
いつでもラブラブvバカップルその1な2人を思い浮かべつつ、よくわからないことを考え込んでいたクリスは、自分が車道ギリギリを歩いていたことにふと気が付いた。
「と、いけないいけない。ボーっとしてたら危ないっけ」
この田舎ならそんなこともないかもしれないけど…内心ちょっと思っていたりしたのだが。
うつむいた瞬間キーっと音が響いて。慌てて顔をあげたら、車が目の前で。
「…っ!?」
とっさに反応できず、頭を抱えてしゃがみ込む。車は彼女にぶつかる直前で、大きく進行方向を変えなんとか直撃は免れた。未だ呆然とするクリスに、車を運転していたらしき男が車から飛び降りて駆け寄ってくる。
「すまない、見えなかった!大丈夫か!?」
「大丈夫です、けど…」
青年はん?と不思議そうな顔をする。クリスはその顔に、余計に腹をたてていた。
「危ないじゃないですか!今のは明らかにスピード違反です!確かに車道ぎりぎりを歩いていた私も悪いかもしれませんが、それでも私が歩いていたのは歩行者用道路です!怪我がなかったからいいですけど、もっと安全運転を心がけてください!」
言い終わると、はぁ、とため息が漏れた。思い切り叫んでしまったせいだろうか。青年は呆然としていたが、やがてなんとか、という感じで口を開いた。
「す、すまない」
「謝ってくれなくてもいいですから、これから気をつけてください」
「ああ、もちろんだ。…と、ちょっと待ってくれ」
「…なんですか?」
それじゃあ、と帰ろうとしたクリスを、青年は腕をつかんで引き止める。不信たっぷりの表情で振り返ったクリスに、しかし慌てた様子もなく彼はにこにこと笑っていた。
「できれば、名前を教えてくれないかな」
「どうして、ですか?」
「いや、君のように素敵な女性を名も聞かずに帰すのは男の恥というものだ。おおっと、人の名を聞く時は自分から名乗らねばな!私はミナキ!」
「…クリスタル、です」
すごく嫌そうに、しぶしぶといった感じで彼女が答えたことに、男―――ミナキは気付いているのかいないのか。
「クリスタル!いや、素敵な名前だ!どうかな?今日のお礼もかねていっしょに食事でも」
「え、いやあの」
「なぁに、心配なのもわかる。それなら家まで送っていって、そこで改めて親御さんの許可をもらってからでもいい」
嬉々として言うミナキに、クリスは非常に困り果てた。
確かに、悪い人ではなさそうだ。こんな状況で信頼するのもどうかと思うが、実際言葉通り親に許可をもらいに行きそうな勢いではある。―――あるが、やっぱり嫌なものはいやで。でもすごくしつこそうで。
どうしよう、どうしよう。
「おや、信用できないかな?ほら、ここに名詞g」ごすぅっ。ばた。ころころころ。
名詞を取り出そうと自分の懐をがさごそ漁っている最中に、横から白いボールが直撃。そのまま倒れるミナキ。状況がさっぱり理解できないクリス。
なかなか思考がまとまらない彼女を現実に引き戻したのは、ぐっと腕を引っ張る力だった。
「きゃぁ!」
「きゃあじゃねぇ!なーにやってんだよお前は!」
振り返れば、そこにあるのは見慣れた金の瞳。…怒っているように見えるのは、クリスの気のせいではないだろう。
「ほら、帰るぞ!」
「え、ちょ、ゴールド…ぶ、部活は!?」
「今日は先生の方の用事で早く終わったんだよ!」
腕を握ったままずんずんと歩いていくゴールドに引きずられるように、クリスもまた歩いていく。強く握られた腕は少し痛くて、少し温かい。痛い、と言おうかどうしようか迷って、やめる。
会話なくしばらく道を歩いていたが、やがてゴールドがため息をつきながら口を開いた。
「…お前、もうちょっと危機感持て」
「え?」
「見てて危なっかしいんだよ、まったく。変なところで抜けてんだから」
「心配、してくれたの?」
「…当たり前だろうが…」
いつの間に拾ったのか、彼の手には先ほどぶつけたであろう白いバレーボール。誕生日プレゼントで買ってもらったと、すごく喜んでいたのを思い出した。
「それ、持ってかえって練習するの?」
「おう。ま、ホント基礎練しかできねぇけどな」
そう言って笑うゴールドは本当に楽しそうで。つられて、クリスも笑顔になる。
「がんばってね。応援、してるから」
「まっかせろ!」
そうだ、と声をあげ。しかし突然考え込むゴールド。クリスが首をかしげていると、あーもう、と頭をかきながら、…そこではたと、ようやく気付いたらしく、彼は慌てて彼女の腕から手を離した。
「わ、悪ぃ!」
「あ、いいよ、気にしてないから」
どちらかというと、ちょっと寂しいかな、なんて言えないけど。そんなクリスの内心など露知らず、ゴールドはあーとかうーとか悩んだ挙句、一回深呼吸をしてから彼女を真正面から見据えて言った。
「オレ達、今度新人戦があるんだ」
「うん、知ってる」
「お前、応援に来いよ」
「え?」
きょとんとするクリスに構わず、ゴールドは続けた。
「そしたら、絶対勝ってみせっからよっ!」
それだけ言い放ってすぐにばっと背を向け…ほんの少しの間見えたその表情が赤かったように見えたのは、気のせいじゃないよね?と、クリスはそう思って笑う。
まだまだ、これから。自分も、彼も、2人の間も。
「うん、絶対、応援行くわ!」
「…けっ。オレのすごさに驚くんじゃねーぞ!」
「…あははっ!」
自信たっぷりなゴールドの言葉に、クリスは思わず吹き出して。
辺りに少年と少女の笑い声が響くのは、そのすぐ後のこと。
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