いつものように歩くマサラへの道。例え何があるわけでもなく、彼に会えると思えば自然と心も弾む。
 時間もあるし、たまにはゆっくり歩いていこうかな、と。広がる青空の下、イエローは1人歩いていた。目指すはマサラタウンのレッドの家。何度も行った、通い慣れた道だ。
 「通い慣れた」というのが、なんだかとてもうれしくて。主人が浮かれているのがわかったのか、隣を歩いていたチュチュも軽くスキップを踏んでみたりしている。
 気分は最高。…だったの、だが。うきうき気分の彼女の目に、ふと目に入るものがあった。
 流れる長い髪。抜群のスタイル。いわゆる「美人さん」とすれちがう。イエローは思わず麦わら帽子を深くかぶった。

 こんこん、とノックすると、すぐに扉は開かれた。
「お、よく来たなイエロー!」
「はい。…えっと、他の皆さんは?」
「グリーンとブルーは遅れてくるって。さ、あがってあがって」
「それじゃ…お邪魔します」
彼の母親はどうやら留守らしい。以外にも整理された家の中は、どこに何があるか一目でわかる。見回しながら、イエローはそんなことを思った。
「…イエロー?どうかしたのか?」
ふいにレッドにそんなことをたずねられた。
「…え?」
「いや、なんていうか…元気ない気がしてさ」
「僕、そんなに元気なさそうに見えますか?」
「あ、いや、…なんとなく、なんだけど」
なんて答えようか、とイエローはふと考える。そもそもなんでそう見えるんだろう、と。
 その沈黙は、ただ考え込んでいただけだったのだが、レッドは違うようにとったらしい。
「い、いやあの、無理に理由話したりとかはしなくていいんだ。ただ、悩みとかあるんだったら、相談してくれたらと思って…」
しどろもどろに口にするレッドの様子に、くすり、とイエローは笑いをこぼす。
「気遣ってくれて、ありがとうございます。…でも、本当になんでもないんです」
そう言って笑うイエローにレッドは苦笑して、彼女の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
「なんかあったら、言ってくれよ」
「はい」
先ほどまでの小さな不安は、いつのまにか消えている。頭に残る彼の手の感触が、とても心地よい。
 ―――ああ、僕ってなんて幸せなんだろうと、イエローは心から思う。
 何を悩んでいたのだろうと、数分前の自分を不思議に迷う。自分よりきれいな人がいる、それがどうしたというのだろう。彼が、自分の隣にいてくれることに、嘘はないというのに。
「…レッドさん」
「ん?」
「僕、確かにさっきまでちょっと悩んでました。でも、もう大丈夫です」
イエローの突然の告白にレッドはちょっと目を丸くするが、すぐにやさしい笑みを浮かべた。
「そっか」
何を聞くこともなく、ただそううなずいて。自分を包んでくれる彼が、イエローは。
「…レッドさん」
「ん?」
「大好きです」
彼はまた目を丸くして、―――やはり先ほどと同じように、やさしい笑みで彼女に答えた。
「俺もだよ」
少し照れくさそうに、しかしはっきりと彼はそう言った。
「さて、もうすぐ2人も来るだろうし、お茶のしたくでもしようかな」
「あ、僕も手伝います」
「いいよ、俺んちだし…」
「気にしないでください。僕、そういうの好きなんです」
 台所へ向かう、2人の少年と少女。彼らは今、本当にささやかな、けれど確かな幸せをかみ締めて。

 家のチャイムが鳴り響く。
 2人は顔を見合わせて、玄関へと向かった。

 今日の空も、きれいな青い色だった。




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