ピンポーン、と。軽い音がちょっと響く(否卓球)。
 一つの扉を前にして、シルバーは珍しく緊張していた。
 返事が聞こえないのに首をかしげ、もう一度ボタンを押そうとした時。いきおいよく扉が開いた。
「いらっしゃいっ!よくきたわね、シルバー!」
「…こんにちは、ブルー姉さん」
笑顔で自分を迎えてくれた義姉に、彼も照れつつ笑い返した。

「で、姉さん。一つ質問なんだけど」
「何?」
「この大所帯はなんなんだ?」
シルバーの視線の先―――そこには、すでに居間でくつろいでいるレッド、イエロー、グリーンの姿があった。
「だって、2人っきりでも寂しいかと思って。嫌だったかしら?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
「そう。あ、ちょっと待ってて、飲み物持ってくるわね」
そう言ってブルーは席を立ち、部屋を後にした。とたん、部屋の空気ががらりと変わった。
「…どうして貴様がここにいる」
「呼ばれたからだが」
ばちばちばち、と効果音が聞こえそうな火花を散らす2人―――シルバーとグリーン。すでに残りの2人は部屋の隅に避難していた。
「うん、このお菓子おいしいな」
「あ、それ僕が持ってきたやつです。トキワにおいしいお店があって…」
「へぇ。今度教えてくれよ」
「はい!よかったらいっしょに行きませんか?」
自分たちとは無関係、とばかりにレッドとイエローは2人の世界を作り上げている。が、そんなことをしなくとも、おそらく対立する2人の耳にも視界にも入っていないだろう。
「どういうことだ貴様。ブルー姉さんの優しさにつけこみやがって…っ!」
「ふん。あいつが俺を呼んだんだがな。シスコンが過ぎるんじゃないのか?」
にらみ合う2人。ゴゴゴゴ…っと風が吹き、2人の髪の毛やら服やらがなびく。っていうか睨み合いだけで風を巻き起こす2人は本当に人間なんだろうかとイエローはこっそり考え、あいつ本当に俺のライバルなんだろうかとレッドは密かに悩んだ。
「お待たせー。…あら、シルバーもグリーンも、どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
「ありがとう、ブルー姉さん」
ブルーの登場に何事もなかったかのようにちょっとさわやかな笑顔(怖)で答えるグリーンとシルバー。自然な動きで席につくと、シルバーはブルーから飲み物の入ったコップを受け取った。
「何か手伝うことでもある?」
「ううん、大丈夫よ。それに久しぶりに会えた弟に、そんな手伝わせるわけにもしかないし」
「そんなこと気にしなくていいよ。俺、姉さんの役に立ちたいし」
おそらく義姉以外の誰にも見せない笑顔で、ブルーに笑いかける。ブルーの方は一瞬きょとんとして―――にっこりと笑うと、がばっとシルバーに抱きついた。
「もーっ、シルバーってば、かわいいっ!」
「わっちょ、姉さん!恥ずかしいよ!」
顔を赤くしながら文句を言うシルバーだが、もちろん本気で嫌だとは思っていない。…ブルーに見えない位置で、勝利の微笑みを浮かべちらりと視線を走らせる。声には出さず、ぱくぱくと口だけを動かす。
《ふ、うらやましいだろう》
《…貴様、覚えておけよ》
《それはこっちのセリフだと思うんだがな》
同じように口パクで返してくるグリーンと火花を散らしつつ、ぎゅーっと抱きついてくる義姉の感触を楽しんで。なんかもう幸せいっぱいなブルー。勝利に浸るシルバー。握り拳を震わせてシルバーを睨みつけるグリーン。そしてその面々に関わるまいとしつつ、自分たちの作り上げた世界にどっぷりとつかり込むレッドとイエロー。
 なんとも微笑ましい昼下がりである。
「ああもうホント、シルバーってばかわいいわよv」
「姉さんったら。俺もう子供じゃないよ」
頭をなでなでされ、口ではいろいろ言いつつ喜んでいる義弟と、弟が可愛くてしかたのない義姉と。近くにはもはや完全に世界に入り込んでいるバカップルと。
「…俺の立場はないのか…?」
一人寂しくつぶやいたグリーンに、応える者は誰もいない。


完。


「終わるなーっ!」
「はっはっは、無駄だぞグリーン」
「グリーンさんもどうですか?お菓子、おいしいですよ?」
「いらんわっ!」
「シルバー、ゆっくりしていってねv」
「もちろんだよ、姉さんv」
 …今日もマサラは平和である。




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